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Intel,次世代のノートPC向けプロセッサ「Panther Lake」の概要を明らかに。新世代プロセスでCPU性能を強化
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現行の薄型ノートPC向けSoC「Core Ultra 200V」(開発コードネーム Lunar Lake)シリーズの後継となる製品だ。
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Lunar Lakeの後継なので,Panther LakeがデスクトップPCやゲーマー向けの大型ノートPCに搭載される可能性は,今のところ低いだろう。多くのゲーマーが手にするCPUになるかどうかは,微妙なところだ。
だがIntelは,Panther Lakeにおいて,現行のLunar Lakeと,デスクトップPCや高性能ノートPC向けのプロセッサ「Arrow Lake」(開発コードネーム)の融合を図ろうとしているようだ。
「Panther Lakeは,Lunar LakeとArrow Lakeそれぞれの優れた点を取り入れた製品」とIntelは述べていたりもするので,将来のIntel製品の動向を占う意味では重要な製品といえる。
Intelが明らかにした,Panther Lakeのアーキテクチャ概要をざっくりとまとめてみよう。なお,製品ラインナップや発売時期,価格などは明らかになっていない。
Lunar LakeとArrow Lakeを融合させたタイル構成を採用
Lunar LakeやArrow Lakeシリーズと同様に,Panther Lakeは,Intel独自の積層パッケージング技術「Foveros」を採用して,複数のシリコンダイ(Intelはタイル,Tileと呼ぶ)で構成されたプロセッサだ。
ただ,現行世代のLunar LakeとArrow Lakeは,各タイルに集積している機能がかなり異なっていた。たとえば,Arrow Lakeを構成するタイルには,以下のような機能が集積されている。
- Compute tile:CPUコアであるP-coreおよびE-core
- GPU tile:Intel Xe2アーキテクチャに基づくGPUコア
- SoC tile:メモリコントローラやNPU(Neural Processing Unit),Xe Display Engineなど
- I/O tile:PCI Express(以下,PCIe),Thunderboltコントローラなど
- Base tile:上記のタイルを上に実装する土台
一方のLunar Lakeは,次のタイルで構成されている
- Compute tile:P-core,LP E-core,NPU,GPU
- Platform Controller tile:サウスブリッジにあたるすべての機能
- LPDDR5X SDRAM:Lunar LakeではタイルとしてBase tile上に実装
- Base tile:土台
それがPanther Lakeでどうなるかを示したのが,次のスライドだ。
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Lunar Lakeでは,Compute tileに集積されていたGPUが,Arrow Lakeと同じようにGPU tileとして分離独立された。その一方,SoC tileではなく,Lunar Lake世代と同じ名のPlatform Controller tileが存在する。
また,Panther Lakeでは,パッケージ上にメインメモリを搭載しておらず,これまでどおりメモリバスによって外部のメモリチップを接続する方法に戻った。
補足しておくと,図中のFiller tileは,段差を埋めるためのダミーダイで,なにかの機能を持つわけではない。
このスライドだけを見ると,Arrow Lakeに近いタイル構成という印象を受けるが,各タイルに集積されている機能が,Panther Lakeはずいぶん違う。
Intelは,Panther Lakeの8コアモデルと,2種類の16コアモデルの構成を公開しているので,それぞれをスライドで示しておこう。
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スライドに示されているとおり,Panther LakeのCompute tileには,CPUコアとして高性能なP-coreと省電力向けのLP E-coreがあり,16コア版ではE-coreも実装されている。
CPUコアアーキテクチャは,P-coreに開発コードネーム「Cougar Cove」を,E-coreおよびLP E-coreには「Darkmont」を採用する。Cougar Coveは,Arrow LakeやLunar Lakeが採用する「Lion Cove」の,同様にDarkmontは「Skymont」の改良版である。
Compute tileにはほかにも,強化された画像処理エンジンとなる「Image Processing Unit」(IPU)や,AI処理ユニットであるNPU,メモリコントローラ,そして新要素である容量8MBの「Memory-side cache」が集積されている。
GPUを除く演算ユニットと,メモリまわりの回路を集積したのがCompute tile,と理解してよさそうだ。
注目すべき変更点は,メモリコントローラがCompute tileに移されたことにある。Arrow Lakeにおけるメモリコントローラは,Compute tileとは別のSoC tile内にあった。そのため,メモリアクセスにともなう遅延が大きくなりがちで,ゲーム性能が伸びないひとつの要因になっていた。
そこでPanther Lakeでは,メモリコントローラをCPUコアに近いCompute tile内に移すことで,メモリアクセス遅延の低減を狙ったようだ。
メモリコントローラが対応するメモリタイプは,モデルによって異なる。高いGPU性能を狙う16コアCPU+12コアXe3版では,LPDDR5X-9600 SDRAMに対応するという。
Panther Lakeの総合的なメモリバス帯域幅は,公開されていない。ただ,LPDDR5X-9600であれば,Appleの独自SoC「Apple M4 Max」が対応するLPDDR5X-8533を超えるメモリバス帯域幅を実現できるので,M4搭載MacBook Pro(メモリバス帯域幅は,最大546GB/s)を超えるメモリ性能を有するかもしれない。
メモリまわりではほかにも,Memory-side cacheの新設も注目のポイントだ。3次キャッシュの下に配置された一種の4次キャッシュメモリだが,I/Oを含めたメモリアクセスの遅延を隠蔽するとともに,メモリアクセスの頻度を下げることで,電力性能の向上に寄与すると,Intelはアピールしている。
Compute tileに集積されたIPUは,第7.5世代に刷新された。IPUではAIベースのトーンマッピングやノイズリダクションが行えるほか,4K解像度の「スタッガードHDR」※を,ハードウェアでサポートするそうだ。
※露出を変えて複数のフレームを撮影し,それらからHDRを生成する手法
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一方のNPUは,第5世代の「NPU 5」となり,最大50 TOPSの演算性能を持つという。
Lunar Lakeの「NPU 4」が48 TOPSだったので,性能の向上幅はそれほどでもない。ただ,新たにFP8に対応するなどの強化が行われているにもかかわらず,シリコンダイに占めるサイズが,およそ半分近くまで小さくなったのが特徴といえよう。
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以上の要素を組み込んだCompute tileが,Intelの製造プロセス技術「Intel 18A」で製造されることも,Panther Lakeにおけるトピックだ。
Intel 18Aは,Intel初の高NA(High Numerical Aperture)EUV露光技術を使用する。微細化にともない,トランジスタの構造も「Ribbon FET」へと変わっているほか,「PowerVia」と呼ばれる専用のレイヤから電源を供給する,半導体業界全体としても極めて先進的なプロセス技術といえよう。
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Intel 18Aは,Intelの今後の命運を握るプロセス技術だ。順調に製造できるのかを含めて,投資家からも興味が持たれているようだが,Panther Lakeを潤沢に提供できるかが鍵となるだろう。
Darkmontコアは,Raptor Coveと同等の性能を低消費電力で実現
先述したとおり,Panther Lakeの16コアモデルでは,CPUコアとして,P-core,E-core,LP E-coreの3種類を用いている。先代であるLunar Lakeと比べた場合,省略されていたE-coreが復活した形だ。
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E-coreというと,省電力向けCPUというイメージだが,Panther Lakeにおいては,E-coreが主としてマルチプロセス性能の向上に割り当てられるという。低負荷のプロセスは,LP E-coreが担うという役割分担になるそうだ。
つまり,Arrow LakeのE-coreとは異なり,Panther LakeでのE-coreは,主役に近い位置にあると理解していいかもしれない。
P-coreとE-coreを集積している「Performance Cluster」は,共有L3キャッシュを含むクラスタである。それに対してLP E-coreは,共有L3キャッシュを含まない「Efficiency cluster」にある点が大きな違いだ。
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共有L3キャッシュから切り離されている点を考慮すると,LP E-coreは,徹底して消費電力重視のCPUコアといえよう。
ただ,Lunar LakeのLP E-coreと比べて,L2キャッシュ容量を倍増したそうだ。
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OSのスケジューラと協調してCPUコアにスレッドを割り振る「Thread Director」も,Panther Lakeでは大きく拡張されている。
Panther LakeのThread Directorは,まずLP E-coreを優先してプロセスを割り当てる。LP E-coreの負荷が高くなったら,Performance cluster側のE-coreやP-coreに,負荷に応じてプロセスを分散させる動作が基本になるそうだ。挙動としては,Lunar Lakeと同じに見える。
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E-core,LP E-coreで使われているDarkmont世代のCPUコアは,2022年登場の第13世代CoreプロセッサにおけるP-core(開発コードネーム Raptor Cove)と同等の性能を,より低い消費電力で実現すると,Intelは主張している。
つまり,3年前の高性能コアと同等の性能が,Panther LakeではE-coreで得られるというわけだ。
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一方,P-coreであるCougar Coveで注目すべきは,Intel 18Aに最適化されており,シングルスレッドにおける極めて高いスループットを実現していると,主張している点だ。
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こうしたCPUコアの採用により,前世代と比べてPanther Lakeは,同じシングルスレッド性能なら消費電力を40%減らし,同じ消費電力では10%の性能向上が得られるとのこと。
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また,マルチスレッド性能では,同性能で消費電力を50%削減,同消費電力では30%の性能向上が得られるという。E-coreの追加が,とくにマルチスレッド性能で効くようだ。
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Intel Xe GPUは第3世代に。マルチフレーム生成も登場
GPU tileを構成するGPUは,Intel独自のXeアーキテクチャの第3世代となる「Xe3」を採用している。
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GPUを構成する「Xe Core」は,512bitのSIMDエンジン「XVE」×8基に,2048bitの演算ユニット「XMX」×8基からなり,規模としては前世代のXe2から変わっていないようだ。
ただ,L1キャッシュ容量が192KBから256KBに倍増したことや,XVEの効率向上によって,Lunar Lake世代のGPUと比べて,同一消費電力で50%性能が向上しているという。
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少し興味深いのは,Xe3では「固定ファンクションの改良」が謳われている点かもしれない。Intel Xeシリーズは,DirectX 11世代やそれ以前のAPIを使用したゲームの性能が低いことが弱点として指摘されてきた。Xe3では,その弱点をカバーする改良が盛り込まれたようだ。
Panther LakeではXe3 core×4基を標準であるが,上位モデルではXe3 core×12基を実装している。Intelの単体GPUである「Intel Arc A」シリーズGPUに迫る規模で,そこそこのゲーム性能が期待できそうだ。
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先述のとおりXe3×12基モデルでは,メモリも広帯域幅なLPDDR5X-9600に対応するので,AMDの「Ryzen AI Max+」シリーズに近い製品になりそうである。あくまでも価格と性能次第ではあるが,携帯型ゲームPCに搭載される可能性もあるだろう。ガジェット好きなゲーマーは,期待していいかもしれない。
ちなみに,今回の発表でIntelは,AIベースのマルチフレーム生成技術「XeSS-MFG」の投入も予告している。マルチフレーム生成は,とくに統合GPUでは高い効果が期待できるので,こちらも期待したい。
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Panther Lakeのおもだった特徴やトピックを簡単にまとめてみた。あくまで薄型ノートPC向けではあるが,Xe3×12基モデルでは,軽量ノートや携帯型ゲームPCのゲーム性能を底上げできるだろう。搭載製品の登場が待ち遠しい。
Intel 公式Webサイト
- 関連タイトル:
Core Ultra(Panther Lake)
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