
企画記事
「マジック:ザ・ギャザリング」はキャラゲーです。MTG×FFコラボから見る“カードゲームを通じた世界とキャラクターの表現”を語ってみる
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“ユニバース・ビヨンド”と銘打たれたMTGのコラボシリーズは好評を博し,「指輪物語」や「Fallout」といった超有名タイトルとのコラボが次々に披露された。その最新作にあたるのが,本日(2025年6月13日)発売を迎えた「マジック:ザ・ギャザリング――FINAL FANTASY」である。
FINAL FANTASY(以下,FF)については,いまさら説明の必要はないだろう。国内でも高い人気を誇るRPGシリーズとのコラボということで,発売が近づくにつれて色めき立つファンの姿が見られ,収録カードが1枚公開されるたびに界隈は大きく盛り上がった。
ただ,MTGを知らないFFファンからすると,この熱狂が伝わりにくいかもしれない。「MTGが世界初のTCGってことは知ってるけど,何がすごいのか」「キャラゲーとして遊べるゲームじゃなくないか」という,なんともいえない空気感が伝わってくる。
だが,安心してほしい。
あえて断言しよう,MTGはキャラゲーである。
競技性が高いことは否定しないが,MTGの優れている点はそれだけではない。30年以上にわたって培われてきた“ゲームを通じた世界とキャラクターの表現”もまた,MTGというプラットフォームのスゴさなのだ。
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そこで,今回は「MTGがいかにFFの世界とキャラクターを表現しているのか」をテーマに解説記事をお届けしよう。なお,取り扱うカードの解説が含まれる関係上,FF本編のネタバレが含まれるので,その点はご注意いただきたい。
「マジック:ザ・ギャザリング」公式サイト
ルールとフレーバーが世界を作る
キャラクターを表現する基礎構造
基本を理解するため,まず「MTGがどんなゲームなのか」を軽く理解しておこう。
MTGにおけるカードは“呪文書”という設定である。プレイヤーは次元を渡る魔法使いとなり,各地で集めた呪文が記されたカードを使って戦うことになる。クリーチャー(キャラクターやモンスター)を呼び出したり,魔法を呼び出して攻撃したりと,その効果はカードによってさまざまだ。
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また,カードの中には「土地」と呼ばれるものがあり,それを場に置くことで,カードの効果を発揮するコスト「マナ」を出力できる。マナは毎ターン土地の枚数分だけ出力できるので,それをいかに効率よく使い,相手のライフ(あるいはデッキ)を削り切るかを競うのだ。
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キャラクター表現という面で,MTGがもっとも優れている点,それは各カードが持つ個性やストーリーを“フレーバー”と“ゲーム上の挙動”の組み合わせによって表現していることだ。
たとえば,戦場に出て戦うクリーチャーの一部は「飛行」という能力を持っている。これは“飛行を持たないクリーチャーにブロック(防御)されない”という特性を示す言葉なのだが,なぜ,飛行を持つクリーチャーはブロックされないのだろうか。
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効果とフレーバーの噛み合いは,ルールの理解を促進するだけでなく,ただのルールに“世界設定”を与えてくれる。いま,あなたがコントロールしている飛空艇は,単に相手プレイヤーにダメージを与えたのではない。有象無象の頭上を飛び越え,本丸に攻撃を叩き込んだのだ。
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フレーバーとルールの組み合わせによる表現は,カードテキストにとどまらない。MTGのカードには“色”の概念があり,それぞれが異なる方向性の能力を持っている。
「カラーパイ」(色の役割)と呼ばれるこの要素は,ゲームに多様性をもたらすと同時に,カードごとの世界設定の表現にも一役買っている。たとえば,白のマナ(コスト)を大量に必要とするものは,それだけ白としての精神を強く持っていることを示しているわけだ。
せっかくなので,各色の方向性を紹介するとともに,本セットに収録されたカードから代表的なものをピックアップしよう。これ以外にも「あのキャラクターならこの色だろうな」と考えてみるのも,なかなか楽しいはずだ。
●平和と連帯の色:白
ここに属するものは,道徳や規則を重んじる。慈悲深く,どんな苦境にも毅然と立ち向かう高潔さを持つ。それは同時に,逸脱を許容しない頑固さにも通じ,ときにはエゴを頭ごなしに否定することにもつながる。
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●知性と探求の色:青
ここに属するものは,新たな可能性や知識の探求を重んじる。好奇心にあふれ,自身(あるいは,それを含む世界そのもの)を向上させようとする。理知的であり先進的な反面,伝統などの概念と対立することもあり,それが傲慢に映ることも多い。
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●力と個人の色:黒
ここに属するものは,なによりも力を重んじる。常に力を渇望し,それを得るためには手段を選ばない。ときには集団を形成することもあるが,それは個人の利益を最大化するためのものであり,道徳心や正義によるものではない。
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●自由と刹那の色:赤
ここに属するものは,自由と感情を重んじる。その瞬間に感じたことがらを受け入れ,感じたままに発露し,笑ったり怒ったりする。怒りや憎しみ,愛情や忠誠心など,方向性はさまざまだが,誰しもが自身の感情に従う。それが連帯となるか,破壊となるかはそのとき次第だ。
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●受容と不変の色:緑
ここに属するものは,世界がありのままであることを重んじる。能動的な変化を望まず,自然のありかたを理解しようと努めている。各自が世界のシステムの一部であることを受け入れ,それに反発するものを嫌うことが多い。
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ちなみに,MTGのカードは人物の“ある瞬間の精神性や状態”を表現していることが多く,特定の色として登場したからといって「その人物をその色でのみ表現している」というわけではない。本セットにおいても,同一人物が複数の色で登場している。各カードを眺めるとき,その瞬間の出来事を,どんな解釈で“色”に落とし込んでいるのかを考えてみよう。
30年間で培われたメカニズムを総動員!
「両面カード」による完璧な原作再現を見る
前置きが長くなってしまったが,ここからが本題だ。実際に「マジック:ザ・ギャザリング――FINAL FANTASY」のカードを見ながら,どんな形でキャラクターやストーリーが表現されているのかを,その方向性と合わせて紹介していこう。
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先に紹介した「飛行」のように,MTGにはキャラクター再現に役立つ道具がたくさんある。その中でも,今回のコラボで特にうまく活用されているのが「両面カード」のメカニズムだ。
両面カードはその名のとおり,表裏の両方に情報が印刷されているカードである。表面(第一面)に書かれた条件を達成すると“変身”し,新たな姿(第二面)となって戦場に戻ってくる。これを完璧に使いこなし,キャラクターのストーリーを表現しているのが《暗黒騎士、セシル》のカードだ。
《暗黒騎士、セシル》は,非常に高い基本スペックに加えて,ダメージさえ与えれば確実に敵を撃破できる能力「接死」を持つが,戦うほど自身の身が削れていくデメリット効果を持っている。戦い続ければ,いつか身を滅ぼすことになるだろう。
しかし,ライフが一定以下に達すると,仲間を守りながら戦う《覚醒のパラディン、セシル》へと変身するのだ。与えたダメージ分の体力を回復する「絆魂」を持つなど,まるきり真逆の能力を持つカードとなる。FF4を知る人であれば,これが見事に原作の流れを再現していることが分かるはずだ。
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このように,両面カードのメカニズムはキャラクターの能力変化を表現するのに適している。そして,戦いの中で発生するキャラクターの大きな変化といえば,RPGではお馴染みのアレも外せない。――そう,ボスたちの“第二形態”である。
各シリーズのヴィランにあたるラスボスの多くは,そのままでも力強い能力を発揮するが,条件を満たすと強烈な効果を持つ第二形態へと変身する。これもまた,第一面と第二面がキャラクターのストーリーをしっかり表現しているのだ。
初代FFに登場した《コーネリアの騎士、ガーランド》を例に挙げてみよう。このカードは自己蘇生能力を持ち,倒れても墓地から変身しながら復活する。さらに,第二面は死亡しても墓地には移動せず,ライブラリの“一番下”へと戻っていく。
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この挙動は,死亡したガーランドが2000年前のカオスに転生し,カオスが2000年後のガーランドになるループ構造を表現したものだ。時が流れてデッキの底(2000年後)に到達すると,再びガーランドが現れて戦いが始まってしまう。
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両面カード以外にも,再現に寄与しているメカニズムは多い。麻痺カウンターで《トンベリ》の動きの遅さを表現したり,土地カードで建物や都市を表現したりと,その表現力の幅広さには唸らされるものがある。
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個人的に注目したいのは「フラッシュバック」を持つカードたちだ。フラッシュバックは「墓地にあるこのカードを,通常より高いコストを支払うことで唱えてよい」という能力で,一度使ったカードを墓地から唱えられる便利な効果として使われている。
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特にFF8のキャラクターたちが描かれた《蘇る記憶》は,このメカニズムをうまく活用している。デッキの上から5枚のカードを見て,3枚を手札に加えられる強力なカードだが,相手プレイヤーが選ぶ残り2枚はライブラリの一番下に置かれてしまう。つまり,記憶の一部が封印されてしまうのだ。
FF8の物語は,登場キャラクターたちが抱える記憶の欠落と,それによるすれ違いが重要なキーになっている。2度目の使用は極めてコストが重くパフォーマンスが低下するなど,このあたりもうまい表現になっているように思う。
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再現のためには新要素も作っちゃう
“召喚獣”を再現する新メカニズムに注目
MTGが培ってきたメカニズムを駆使した原作再現だけでなく,本コラボのために新たに作られたメカニズムも存在する。その中でも,興味深いのが「段階」と「英雄譚・クリーチャー」だ。
段階を持つカードは複数の異なる効果を持ち,多くのマナを支払うほど強い効果を発揮できる。本コラボではこれを使って,FFシリーズではお馴染みの「ファイア」「ファイラ」「ファイガ」といった“同系統の上位魔法”を1枚のカードで表現している。
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MTGには属性相性の概念が存在しないため,各属性の魔法に特徴が与えられているのも面白いところ。《雷魔法》は単体ダメージ,《炎魔法》は全体ダメージ,《氷魔法》は行動阻害と,それぞれのイメージに合った効果が用意されているのだ。
これは,単にMTGのメカニズムを“原作を再現するだけの装置”として使っているのではなく,より広くイメージをふくらませていることを意味している。このように,再現可能な範囲はキッチリ再現しつつ,MTGらしく解釈を広げている部分にもぜひ注目してほしい。
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FFシリーズでお馴染みの「召喚獣」を表現する「英雄譚・クリーチャー」もまた,原作再現とMTGらしい解釈をうまく混ぜ合わせ,独自の世界設定を見せてくれるメカニズムだ。
英雄譚は“伝承”を表現するカードタイプで,ターンが経過するごとに順番に効果が発揮される。本を開いてページをめくるように処理が進み,すべての効果が発揮されたら本が閉じて効果が終了する(自動的に戦場から離れる)のだ。
これまでの英雄譚カードは,効果をすべて解決したあとに裏面になりクリーチャーになるものはあったが,基本的に「場に定着して自動的に効果が出る呪文」でしかなかった。
英雄譚・クリーチャーは“ステータス”を持つため,普通のクリーチャーと共に戦闘ができる。つまり,伝説の存在が戦場に顕現する姿を,英雄譚・クリーチャーによって再現しているのだ。
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英雄譚・クリーチャーはカードの一形態なので,ほかのメカニズムと組み合わせて使用されていることも多い。《封印の宝珠》が条件を満たすと《召喚:アレクサンダー》が現れたり,《幻のガード、ジェクト》が攻撃に成功すると《ブラスカの究極召喚》へと変身したりと,いろいろな形でそのストーリーが表現されている。
各カードごとに出展となる作品が明確に意識されており,そのあたりも面白いところ。カードをプレイして効果を発揮するたび,原作の思い出が湧き上がってくることだろう。
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シド(全15種類)狂気の全員出演
まだまだあるよ,再現度MAXなカードたち
ここまでに取り上げてきたメカニズム云々を抜きにしても,注目してほしいカードはたくさんある。ここからは,特に見てほしいカードをいくつか紹介していく。
まずは,お馴染みの復活アイテム《フェニックスの尾》だ。これには2つの効果があり,墓地のカードを復活させられるだけでなく,指定したアンデッド系カードの追放も選択できる。
FFシリーズを遊んだ人なら理解できると思うが,これは「回復効果はアンデッドにダメージを与え,復活効果は即死効果を与える」という挙動を再現したもの。アイテムを使うだけでボス級の敵を瞬殺する,あの感覚をMTGでも体験できるのだ。
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ゲーム上の挙動をそのまま再現しているものといえば《ジャボテンダー》も外せない。能力「針万本」で攻撃力が+9999され,本体のステータスは実に10000/7にも達する。
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そのほか,とんでもない力技で原作を再現しているものもある。中でも特に狂気を感じたのが《独創的な革新者、シド》である。FFシリーズにおける「シド」といえば技師の代名詞だが,それぞれがまったく異なるキャラとして登場する。
発表前は「どのシドがカードになるのか」と期待していたのだが,なんとMTGは「同名カードに全15種類の別イラストを用意する」という力技で全部のシドを繰り出してきたのだ。FFシリーズへの愛を感じざるをえない作り込みっぷりである。
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最後の最後に,個人的に一番気に入っているカードを紹介しよう。それが《フィガロの国王、エドガー》だ。テキストは前半と後半で分かれており,前半は「発明家としてのエドガー」を示し,後半はイベントシーンで投げられた「両面表のコイン」を表現している。
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カードの名称が「フィガロの国王」とされているあたりにも,描写の美しさを感じられる。すでに彼はコインを投げ終え,マッシュは城にいないのだろう。遠くを見つめるエドガーの表情からは,ここにいない何かを想うような様子を感じ取れる。
イラスト,能力,フレーバーのすべてが噛み合い,情景が浮かんでくる。ついでに,脳内で名曲「運命のコイン」を流せば完璧だ。性能の強弱とは関係ない“カードデザインによるストーリー表現”の奥深さがにじみ出る1枚である。
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ここまで語ってきたように,MTGのコラボは原作へのリスペクトがすさまじい。これまでに展開されてきたユニバース・ビヨンド作品も強烈だったが,今回のコラボはより強い熱量を感じ取ることができた。
本セットのために描き降ろされたアートの数々も見所満点なので,ファングッズとして持っておくのも悪くない。実はTCG界隈には“カードを飾るためだけのグッズ”も充実しているので,発売後に欲しいカードを1枚だけ買って飾っておくだけでもかなり満足感を得られる。
もし遊んでみたくなったなら,カジュアルに遊びやすい多人数戦フォーマット「統率者戦」から参戦してみるのがオススメだ。購入してそのままイベントに参加できる「統率者デッキ」も販売されているので,まずはそこから始めよう。
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とはいえ,「マジック:ザ・ギャザリング――FINAL FANTASY」は現時点で多くの商品が完売状態になっている。しかし,各商品は,今夏に再販売が行われる旨がアナウンスされている。興味を持った人は,公式サイトに掲載されたカードリストを眺めつつ続報を待とう。転売商品を買う必要はないぞ!
「MTG」×「FF」コラボセット,一部商品の追加生産を実施。2025年夏以降から順次再販売を予定

Wizards of the Coastは本日(2025年5月27日),同社が6月13日に発売を予定している「マジック:ザ・ギャザリング」の新セット「マジック:ザ・ギャザリング――FINAL FANTASY」について,一部商品の追加生産を行う旨を発表した。
「マジック:ザ・ギャザリング」公式サイト
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